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男がなよなよしたっていいじゃない

日本じゃ絶対に作れないドラマがNetflixで出てきちゃった。

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*Netflix originalシリーズ THE CROWN

 

なんだこれは、これは映像で絶対に描いちゃいけない世界じゃないか。

っていうのが、2話目が終わるときの感想。

 

通勤中に英語の勉強がてらに軽い気持ちで見始めた "THE CROWN"、Netflixオリジナルドラマで英国の王室を描くドラマ。英語も文化的背景への知識も完全に上級者向き、日本じゃ絶対にタブーの世界、2016年に退位のお気持ちを述べた天皇を持つ私たち、日本国民には関係ないとは言えない世界を真正面から描き、考えさせられる衝撃的な作品。

 

絶対に見るべき作品に違いない。

 

*記事には本作品のネタバレが含まれております。といっても、史実に基づく話なので、ネタバレも何もないけど。笑

 

1. 英語上級者向き

2. 日本では絶対にタブー

3. 天皇陛下は神か

 

完全に英語上級者向き

軽い気持ちで英語学習するつもりだった。一応、米国学士を持ち、TOEICも960点以上あるが、1話目を見終わった時には、字幕なしでこのドラマを100%理解できないと判断。英語字幕をつけて数話進めてみたが、それでも理解できないフレーズや言い回し、英国の王室文化やある一定の知識がないと理解は到底できない内容がいくつも入っている。1950年代と第二次世界大戦後の王室を描いているので背景的にも古い(といっても大河みたいに現代の人でも理解できるようには作られているのであろうけど)。アメリカ的なフランクな英語はほとんどなく、Posh*と呼ばれる英国の上流階級で話されている英語なので、ニュアンスや表現は非常にわかりにくい。

*英国には古くから上流、中級、労働の階級*Classがあり、そのClassによって話す英語が違う。2017年の時点で、階級制度はもちろん存在していないし、話されている英語も混在している。が、現実的には金持ちや育ちが良い人は必ずといっていいほど、Poshな英語を話すし、その話し方一つで育ちがわかるというぐらい区別をしているのが実情なんじゃないかと推測できる。

とにかく、英語初心者、中級者向き教材ではない。

The Crownでは日本語字幕では訳しきれない皮肉や言い回しが盛りだくさん。英語学習として進めるのもよいが、一時停止しては意味を調べる作業が多くなりすぎて気が折れる。そして、その作業の中でこの作品を楽しむ事は極めて困難だと思う。Downton Abbey*を先に観て時代の文化的背景を理解するのが良いと思う。

そもそも、英語文脈を理解できるのと、言葉そのものを感じるのは違う。 

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物語の中で非常に重要となる、エリザベス二世の - "coronation" - 戴冠式という意味の言葉がでてくる。文脈の意味合いも戴冠式の大事さも理解はできる。ただ、その言葉の理解度はドラマシリーズ後半のエピソードでいかに文化的な理解ができていなかったのか痛感させれらる。

ディズニーのシンデレラ姫の戴冠式とはわけが違う。エドワード8世(Duke of Winsor)が離婚歴のあるアメリカ人女性と結婚するために国王から退位、その弟のアルバートがジョージ6世として国王になるが、兄より先に死去、その娘、エリザベス2世が女王になる。その背景にある心情なんて想像もつかなかった

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*左:エドワード8世役Alex Jennings、右:ジョージ6世役Jared Harris

そのエリザベス2世のcoronation(戴冠式)に招待を拒否された兄エドワード8世(Duke of Winsor)がTV中継で授与式を見つめるのが痛烈な印象を残す

まず、叔父が姪のセレモニーにでれないのも興味深いが、そもそもの話、離婚歴があるというだけで、アメリカ人女性と結婚できず、王位を捨ててまでも、愛を貫く背景。それを憎む母、また伝統に固辞する教会や王室家の人々との関係など、言葉では表現しきれない文化的、習慣的背景描写が圧巻。鳥肌モノである。恐らく英語圏で育ってきた人はまた別格の緊張感が味わえる事だろう。羨ましい。

英語上級者向けというよりも、そもそも、英国文化圏への理解上級者向け映像作品といってもおかしくはないじゃないか。今となっては、英国の王室がロンドンオリンピックで協力したり、ウィリアム王子の結婚式をTV中継したり、物販を売ったりするのは当たり前となっているが、ウィリアム王子の弟のハリー王子がハリウッド女優と交際したりするなんて、数十年前だったら許されなかった事らしい。

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*左:ウィリアム王子、右:弟のハリー王子 

考えてみてもほしい、日本の皇室の人が海外の人と交際を宣言したり、離婚した事がある人と結婚したりしてみれば、日本中が騒ぐ「スキャンダル」になる。もちろん、王室と皇室はそもそも違うものなので、英国王室と比較するのはおかしいという人がでてくるのは想定できる。

 

日本では絶対にタブー

私が以前、日本にある外資通信社にカメラマンとしていた時、皇室の映像を扱う事があった。TV業界の常識なのか、皇室の映像には基本、音声が一切含まれていない。特に法律で決められているわけではないが、業界の暗黙のルールとして、今なお守られている。諸説あるが、「人間的、または生理的音を排除する」理由として無音での取り扱いとなっている。天皇は人”ではない扱いである。

The Crownでもしっかりとアメリカ的目線で皮肉的に表現しているが、当時の英国のCoronationは、女王がもはや神の様であると。

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*ドラマの中のCoronation戴冠式エリザベス2世の実の夫でさえ女王の前では膝まづかされるのは、もうなんとも言えない感情になる。ちなみに、旦那も欧州一国の王子でプライドもあるし、シンプルに物事がスムーズが進んでいるわけではないのは、映像からも感じられる。 

そもそも、このドラマの斬新さは王室がいかにいびつで、かつ女王が生々しいまでに人間的に描かれている事。いやいやw、人間なんだからwという思ってしまう人は安易である。長い歴史の中で、宗教的にも社会的にも切ってはきれない女王の存在は、皇室をもつ日本国民にとっては、しっかり考えなきゃいけない事でもあるから。

日本の人がどういう風に皇室を見ているかは色々だろうが、現段階の日本で、このドラマの様に皇室の”人間社会”を描く事は常識的にも社会的にも、リスクが高すぎるという結論に至るだろう。私、個人的には非常に観たいものだが、TV局はまず作れないし、今にも後にも俗的な週刊誌が噂程度に報じるのが限界だと思う。英国も数十年前までは同じだった。だからこそ、2016年の天皇の退位表明は非常に大きな事であるし、その発表の重みは測りきれないと思う。The Crownのドラマの中でも政権と教会と王室の関係性が垣間見られるが、それと同時に日本の皇室や政権の関係性も想像すると、単なるフィクション脚色ドラマには思えなくなってくる。日本が今後、皇室を描くドラマを作る事が可能かどうかは、私には全く想像がつかない。

 

天皇陛下は日本国の象徴?

日本で皇室を人間ドラマとして描くと無理でしょ。第二次世界大戦後、映画の世界ではドキュメンタリー形式でもフィクションドラマとして皇室家をテーマに取り上げられている。ただ、その映画やドラマは英国王室のように、国民に寄り添った形で描かれることは少ない。日本人は欧米人と比べても、恐ろしく皇室に対する認識がない。もちろん、私も海外に出るまでは考えたこともなかった。若い世代の想像できる欧州の王室へのイメージはディズニーのプリンス、プリンセス程度なのだと思う。それと同様、若い世代の皇室に対する考えは、浅い。世代によって異常なまでに天皇への認識が違うと思う。そして、政治の世界の人間が恐れる原因とも考えられるが、世論、すなわち若い世代だけではない多くの日本人が、自分たちが考える以上に皇室の存在に対して感覚的に捉えていると思う。

学校教育ではテスト程度にしか触れないし、もちろん、一般家庭で触れることはない。文化的に皇室に対して考える機会も触れる機会もほとんどいない。TVでも大手新聞でも詳しく触れることは、殆どないため、噂であったり、興味ある人は俗的にしか触れることがない。とても、取り扱いに難しいのが理由なのか。

2017年になってから近日報道されている「2019年をめどに天皇退位」というのは、皇室にいる人たちの話題に触れられる数世紀最大の機会だと思う。

マックにいる女子男子高校生たちが、「天皇に対してどう思うか」なんて話していたら、想像するだけでも不思議に思えてくる。

 

- The Crown - 

英語学習だけではなく、英国の王室文化への理解や、自国の皇室に対する考えも合わせてみると本当に面白い作品だと思う。映像も本当に綺麗で、衣装も世界観も本当にリアリティがあるし、現実は小説よりも奇なりを体現していると思う。まぁ、脚色ドラマなんだけどね。笑